高周波誘導加熱
 

コイルに高周波電流を流すとコイルの両端に電位が発生します。

コイル電圧V = ω ✕ インダクタンス(H) ✕ 電流(A) で求めます。

例として 10μHのコイルに10kHz、1000Aの電流を流した時のコイル電圧は

2 X 3.14 ✕ 10kHz ✕ 10μ = 628.3V です。

この程度ならば空気中では放電しませんので安全対策としてコイル取り付け部分やコイルの絶縁は比較的簡単な方法で対処できます。

しかし上記の式でコイル20μH、周波数30kHzとなると4kV近くなり埃や水による通電が発生しないように絶縁を強化する必要が有ります。

計算忘れがちですがコイル電圧=フィーダ極間電圧なので注意が必要です。

極間で冷却水の絶縁が必要です。

実際の配管を見ると 所々 冷却水接続チューブがループ状にしてあるのは絶縁抵抗を高めるためです。余計と思って短くしては駄目です。

コイル電圧の問題

真空に近い状態で異常に放電しやすく成る領域が存在します。

真空チャンバー内に加熱コイルを取り付けるケースでは対策が必要です。

パッシェンの法則”と呼ばれる実験報告が有ります。

真空時の放電問題

パッシェンの法則 特性曲線

真空炉や置換ガス炉で真空引き中に急激に絶縁が悪くなり300V付近で放電が始まります。

放電が起きると急激にインピーダンスが変化し高周波電源装置では過負荷や短絡のアラームになってしまい途中で発振が停止することになります。

防止策としては

 1)周波数を低くしコイル電圧を300V以下にしてその分は電流で補う

 2)真空引き中でパッシェンの危険領域は発振を中断する

 3)コイルをパラにしてインダクタンスを抑える

が考えられ、対応はケースバイケースで更にアレンジが必要です。

by wikipedia

周波数が1kHz以上ではコイルの中にワークを置いても飛出すことは殆ど有りませんが

1kHz以下の場合ワークは磁界に対して反対の磁界を発生するので反発からワークが飛出す現象が発生します。飛出すに至らない場合でもワークの固定が悪いと振動したり

反対にコイルが振動するのでその対策が必要です。

 ベアリングの焼き嵌めなどワークサイズからコイルターン数が得られないが浸透深さを考慮して比較的低周波、大電流を用いる場合が有ります。

この時ワークの押さえが甘いと加熱した瞬間にワークが飛び出してしまいます。

周波数が低いと被加熱物が飛出す問題

通電用のフィーダーが筐体に近づいて筐体を焼いてしまったり、負荷結合が悪い時に加熱コイルが筐体を焼いてしまう事が有ります。

また、筐体が共振してしまうのかコイルやフィーダーと十分距離があるにも関わらず発熱することが有ります。ほとんど予期出来ない事が多いので装置が一通り動作できるようになった後 無負荷で最大出力の連続試験してサーモビューアーで発熱を観測し対策を施工します。

発熱対策は

1)発熱する部分を銅板でシールドする(周波数が低いと効果なし)

2)銅板に冷却バイプをろう付けした物を作り発熱部分を冷却する

3)筐体の一部を絶縁材に置き換える。

  発熱しない材料に置き換えるという考え方の他に、

  筐体の共振ループを阻止するという効果も含む

筐体が漏れ磁束を受けて発熱する問題

装置が複数のメーカーの協力で製作される場合など高周波機器に不慣れなメーカーが搬送部分を担当し、高周波機器メーカーがコイル及び高周波電源を受け持つ様なケースでは

ワークに加熱する工程で受台を強磁性体などの金属で設計してしまうことがよくあります。

高周波の認識が無いメーカーさんはSUS材で作れば無難と思い込んで材質について問い合わせをしないケースです。高周波応用機器ではコイル周辺の構造や材質選定が重要なアイテムと認識すべきです。

1)被加熱物の材質により周辺部品の材質を検討する。

  鉄系(強磁性体):比較的電流が小さいので真鍮、アルミが考えられます。

  アルミ、銅系  :セラミックが理想ですが高価です。

2)予め治具を水冷化し発熱に対処する

治具が誘導を受けて加熱する問題

ワークを固定する台座や治具が熱を奪ってしまいワークが均一に加熱出来ない事が有ります

予めワーク用の治具が分かっている場合は加熱テスト(サンプル実験)で治具を含むテストを実施しないと実機になった時大きな問題に成る事が有ります。

治具が熱を奪ってしまう問題

高周波電源はスイッチングノイズが発生します。

発振部の素子によっても異なりますが一般に周波数が高い機器は強いノイズを発生します。

装置を設計する場合以下の点に注意してください

1)エンコーダーにノイズが入り込んで位置決めユニットが暴走する。

2)電源に高調波が入り込んで電源トランスを焼損する。

3)アナログ信号にノイズが入り込んで正確な計測が出来ない。

4)静電容量型のセンサーが誤作動する

シールドを強化すればノイズが防止できると一般的に考えがちですが逆にシールドがループを作って信号線にノイズを生む事が有ります。

高周波ノイズの問題

高周波機器で最も多くトラブルを発生する問題です。

発振素子がIGBTになって冷却水は純水で無くても良くなった反面、工業用水を使うことから水質が問題と成るケースが多く報告されます。

特に雨水を溜めただけの工業用水を使うケースでは配管にスラッジが溜まり流量低下から電源の焼損に至る事故が報告されます。一般に流量の管理をフロースイッチで監視しますがフロースイッチが藻やスラッジで固着して流量低下を検知出来なかったりフロースイッチの故障から回路をショートしてその場しのぎを行った結果 事故に至るという報告も有ります。

フロースイッチは異物に弱いと言う事を念頭に入れてください。

これらの対策として

1)流量の他に水温も監視する。

2)フィルターやストレーナーを複数化してメンテナンスを容易にする。

3)冷却水循環タンクを設置して冷却と循環を切り分ける。

等の対策が考えられますが相当な費用が発生するので規模や方法について検討が必要です。

高調波対策の問題

トンネルコイルで連続体を加熱するとワークにコイル巻き方向の電位が発生し

ワークをガイドする部品(プーリー等)がアース間で放電(火花発生)します。

ワークガイドが金属製などコイル側で対策が必要な場合加熱コイルを2分割し

通電方向で打ち消しあう構造にする必要が有ります。

ただし、この方法はコイルが向かい合う部分の効率が落ちるので注意が必要です。

ワーク電流の問題

高調波は高周波電源で発振した高周波が電源ラインに戻って正常な電源波形(サイン波)に歪を発生させる現象で場合によっては電源トランスを焼損させることがあり危険です。

高周波機器を多く所有する工場では契約電力に沿った高調波対策が別途必要です。

工場単位の対策の他に高周波電源側でも対策する方法が有ります。

これは同じ電源系列の設備に影響を与えない対策にもなります。

高周波電源の一次側にスター/デルタ、デスタ/デルタの2台の電源トランスを設置して

電源を12パルス化する方法です。

場合によってはDCコンバータの入力を複数系統にしてそれぞれ位相の異なる電源を繋いで多パスル化する方法が有ります。

高周波電源の規模やDCコンバータの構造により制約が有るので高周波電源のメーカーと相談する必要が有ります。

冷却水の問題

コイルボックスの例

ボックスの筐体が共振するのを避けるためにアルミアングルでベーク製のパネルを固定する構造です。

加熱テストの例

加熱テストは簡単なコイルで実験するため実機の環境とは異なる場合が多い。

治具の都合で電源容量が変わる場合も有る。

被加熱物の問題

ワークが加熱した際に大量の煙が出るなど排気や周囲の構造に大きな影響が有るので、加熱時の状況を考慮した設計を行うためにワークに油分が残っているなど環境や条件を明確に提示することが重要です。

加熱中の騒音問題

周波数が可聴範囲の周波数の場合、トランスや加熱コイルから強い騒音が発生します。

ある程度素材で対策ができるものの出力によっては耐えられない騒音が発生します。

集音箱で囲う等の対策が必要ですが、住宅地では周辺の住民からクレームが有るなど

のレベルに成ることが有るので注意が必要です。

高周波電源背面に設置した冷却水監視部

一箇所ですべての監視が出来るように電源の背面にまとめて設置した例

真空チャンバーで真空引き中に加熱コイル両端で放電現象が発生する

トンネルコイルの例

2分割し通電方向が逆だが巻方向は同じ

FET高周波電源の例

周波数が高いものはFETを使用している

この設備は100kHz~200kHzの機材

設計を悩ませる諸問題

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高周波誘導加熱